日本から遠く離れた南国に赴任した際、システム屋が行方不明になり、それまで稼働していた、COBOLによる会計システムが破綻するということがありました。会計のしくみを最初から作り直すことになりました。外注の会計システム構築には、まとまった金額の投資が必要であり、然程大きくもない会社には高根の花です。100%日本宛て輸出であることからも、日本で販売されているような会計パッケージソフトがあれば十分と考えましたが、当時は、現地に会計パッケージソフトは流通していなかったため、米ドル圏で流布している、米ドル会計の安価なパッケージソフトをいくつか試しました。しかし、桁数が違い過ぎることや、説明書が英語だけであること、思うカスタマイズがしにくいことなど、廉価であれば良いという訳にもいかず、数週間、逡巡を繰り返したものです。
原点に戻って割り切る
・・・というほど勇ましいものではなかったと言えますが、会計システムについて、なぜ、どうして、何のためを自問し、今できることとできないことを分類しながら、逡巡、徘徊し続けた結果、一種の諦観から、ある合点、納得に行きつきました。
- 田舎者(実務屋)に必要なのは、会計システムそのものでなく、そういうシステムから得られる、簿記のしくみによる集計・計算の結果(会計データ)である。
- 何故なら、会計データは、必要行動を導き出す資料(管理会計)として利用することができ、また、税務当局など外部機関への報告(財務会計)の基礎となさねばならない。
- 国によっては税制などの違いがあり、合法的な報告(財務報告、税務報告)には、信頼できる、その国の会計士、税理士が運営する会計会社などとの顧問契約、業務支援が必須となる。
- 正式決算書作成や財務会計報告など委託する顧問会計会社が認めるなら、当社の簿記記帳が手書き、Word、Excelのいずれの形式によるものであっても受け入れられる(手書きはダメだが、当社顧問税理士は、Excelでの報告を認めている)。
- Excelは、経理担当者だけでなく、その他の各職種、業務で利用されており、オフィス社員全員が馴染み深いアプリケーションである(日本人Directorも!)。Excelで記帳することで、都会者(IT技術者)がいない当社でも、「会計システム」とは言えないにせよ、田舎者(実務屋)でも分かる簿記記帳のしくみを構築、ブラックボックス化を防ぐことができる。
- 簿記記帳を取引通貨値そのままで表記できるようにすると、簿記データを、財務会計だけでなく、管理会計に即利用できるようになると同時に、特に、取引通貨値だけで社内外のホウレンソウを行う営業や仕入などに、とても有用なデータ資料となる(日本本社、関係商社間ホウレンソウの際、日本人Directorがいちいち経理担当者に聞かなくて済む)。
以上のような自問自答、確認を経て、自称、Excel多通貨簿記と言う、小さな海外拠点の多通貨簿記を進発することとなったのでした。
新しいExcel多通貨簿記
多通貨簿記・・・取引通貨値のまま多通貨で記帳する簿記
私が関わったのは、ルピア建て会計の簿記記帳です。日本円や米ドル、そして、ルピア建てと、多通貨で取引が多発する簿記との邂逅は、日本で、外貨取引が年に数回という簿記しか知らないものにとっては、大きな驚き以外の何物でもありませんでした。
ルピア会計なので、会計資料全てが、当然としてルピアに換金されたデータとなります。日本への輸出は日本円で売上、輸入品のほとんどが米ドル建てで取引され、交通費の一部も米ドルで発生・・・当事者として、こないだの、売上3,000,000円、仕入20,000ドル、出張旅費は1,500ドルなどと記憶していますが、経理が記帳して示す元帳や試算表は全てルピアに換金されているため、その「こないだの」売上、仕入、旅費が、本当にそこに記されたルピア値に相当するのか、いちいち、その時の為替レートを聞きながら電卓で検算しながら見るということになる訳です。
都会者(会計専門家)の人々には笑止千万な悩みではあるでしょうが、骨の髄まで田舎者(実務者)としてやってきた者のひとりとしては、取引通貨値と会計通貨値、それに、その時の為替レートを同時に記しておいてくれれば、慌てないで済むだろうにと身勝手な考えを持っていましたし、小さな会社のことです、経理担当者に、言葉だけでなく、会計簿の通訳までせないかんのかと思わせる訳にはいきません。取引通貨値そのままで仕訳して、社内管理会計用と社外財務会計用の両方のデータを同時にいつでも分かるようにできれば・・・という日ごろからの思いが、Excel多通貨簿記の取組で実現できる!・・・と嬉々としていたのは、私だけだったのかもしれません。
古いExcel多通貨簿記
2003年に、制作したExcel多通貨簿記を運営開始しました。ただ、当初から理解していたことですが、仕訳データを月次などのタイミングでその都度、コピペし、ピボットテーブルで一覧にしたりと、どうしても手間が必要とされます。それでも、身近のExcelで多通貨簿記の記帳できるということで、帰国前に近くの日系法人の方々に紹介し、帰国後、ODA採択された小企業の方の記帳応援の際に利用したりなどしてきました。
そういう手間を省くために、取引通貨値で記帳するという同じ考え方で、Access多通貨簿記を制作し、使って頂いた方もありましたが、ご存じの通り、Excelを使う方でも、Accessは使ったことがないという方が多くあります。IT技術者でない実務者が作っているため、Accessを知る方であれば、内容や構造はすぐに理解してもらえるシンプルなものですが、いかんせん、Accessそのものが一般的でなく、特定のプログラム言語ほどではないにせよ、敷居が高い存在のようです。
新しいExcel多通貨簿記
その頃から十数年が経過した今日、あくまで表計算としての道具であったExcelに、データベース型機能が追加されるようになりました。現在利用しているOffice365環境のExcelでは、Power Query, Power Pivotなどの新しい機能が利用可能となっています。
個人的な感想を込めて表現するなら、Accessを習得せずにExcelをデータベースとして使えるようになったということになります。今の小さな海外拠点で活動なさる方々には、ぜひ、新しいExcelを使って、多通貨簿記という実務者向きの考え方を道具として実現し有効活用して頂きたいと思う次第です。あの時にこれがあったら!とつくづく思う田舎者(実務者)のひとりです。
現在の「小さな海外法人のExcel多通貨簿記」は、まだ、古い内容のままです。新しいExcelの機能を利用してよりシンプルで簡単な多通貨簿記の記帳を実現したいと思います。出来上がりましたら、改めてご案内申し上げます。
***2024年5月、「Excel多通貨簿記データベース」制作中***
小さな海外法人のExcel多通貨簿記