遠い昔、新入社員研修と言えば必ず聞かされたお話しがあります。それから何十年も経った今、それは新人のために必要な話ではなく、中間、上級管理者こそ学ぶべき話なのだろうと思い返すようになりました。
南の島に行ったふたりの靴のセールスマン
私の若かりし頃、よく、この「南の島に行ったふたりの靴のセールスマン」のお話を聞かされました。簡単に振り返るとこんなストーリーです。
ある時、南の島国にふたりの靴のセールスマンが送られました。そこが新たな市場として適任地かどうかを確認することがふたりの役目なのです。上陸早々、ふたりが目にしたのは、裸足で生活するローカルの人々の姿でありました。早速ふたりは日本の本社宛て電報を書き送りました。
- Aセールスマン
「皆裸足、見込みなし、新市場として不適当」 - Bセールスマン
「皆裸足、靴の良さを教えれば、最適の市場」
二人は同じ事実を観ましたが、全く異なる考え方をして、本社に報告します。同じ事実でも、考え方次第で全く異なる見方になることを示す例です。できる限り、Bセールスマンのように、ポジティブにクリエイティブにモノを観るように努めよう・・・というのが、かつてのお決まりの研修の趣旨となっていた訳です。
新人の悲哀
多くの新人が同じ話を聞いたということを思い起こせば、いろんな会社、職場で、この話は聞かされていたのだろうと思います。新しく入った組織のことはまだ良く分かっていないが故に新人である訳ですが、それら新人が、聞いた話を基に、できる限り「クリエイティブ」な発想を心掛けようとします。そういう新人に対する会社、上司らの実際の対応は、大雑把に以下の二つに分けられます。
- X社
「新人らしい、全く無知で馬鹿げた発案であり、無意味である」 - Y社
「新人らしい、既知の知見にはない発案であり、一考の価値あり」
コンテクスト、発言の仕方・態度などいろいろなケースが考えられますが、大きな傾向として、会社文化が、新人や下位者の発言を聞こうとしないか、努めて取り上げようとするという二極の文化があります。会社が閉鎖的な、経営の少ない社員の意見には目も向けないという文化である場合、「クリエイティブ」的発言は「10年早い」と捉えられ、無視されるか、批判の的になるだけです。研修で教わった通りにしようとする新人は悲哀を感じざるをなくなります。
クリエイティブを要求しているのでなく、ただ、教えられた通りに動くことが必要と考えられている文化では、余計なことは言わずに、ひたすら、会社がこれまでなしてきたことを同じようにこなすようにすることが求められているのですから、素直に、つまり、黙って言われたように動く者が、「優秀な社員」と評価されるようになります。
研修のない会社の新人の悩み
研修の目的は何か?ということを問い直せば、新人研修として適当な内容であるかどうかが明確に判断されるはずですが、見たことのある例では、研修内容が然程突き詰めて問われることはなく、外部コンサルタントのできあいのプログラムをそのまま承認するか、人事、総務に携わる管理者の判断だけで、一種のお決まり事として、新人研修という「催し」が開催されているようです。
より小規模な事業組織では、研修というものがある訳ではなく、いわゆる、「OJT」の名のもと、配属先の先任者、上司らにその研修の代わりなる新人教育が要求されますが、指示された側が、よくぞしてくれたと喜ぶ例にはお目にかかったことがありません。ほとんどが「忙しいのに余計な荷物寄こしやがって!」というのが本音であり、それ故か、「OJT」は、勢い、「先輩の背中を観て、自分で(勝手に)学べ!」というのが基本姿勢となっているようです。
中には親切な先輩がいるもんです。親切丁寧にいろいろと老婆心を働かせて教えてくれる人もあります。ただ、それらは、その人個人が教えられたこと、個人が短からぬ勤務から学んだ「通常業務」として身に着けたあり方などを示し教示するという範囲を超えることはありません。従って「クリエイティブ」であることはほとんど考えられていないことになります。
そういう仕事場での新人は、研修を受けた場合の矛盾から悲哀を感じるということはありませんが、先輩や既存文化に同化しなければならないという自分の本当の役割は何なのかについて悩み始めることがあるかもしれません。
クリエイティブかどうかは社長の考え方
人の教育を、研修であろうとOJTであろうと、社内外の人に任せているだけではクリエイティブさを学ぶ機会はないとなれば、誰がクリエイティブという、特に今の社会に必要とされる考え方を学べるのか?と疑問を持ちます。
これまでの、いくつかの中小企業の活動で出会った実例からすれば、それは、その組織の社長自身がクリエイティブな発想を持つ人かどうかで決まるのだと考えられます。クリエイティブなアイデアを掴むのも、それを実現させるのも、その組織の社長がクリエイティブな人であるからこそ可能となることです。
但し、社長が創造的発想を持っているというだけでなく、そのアイデアなりを実現させるために具体的な行動、組織やしくみの変更、そして、本当に取組めるかということが肝心なこととなります。話しがどんなにクリエイティビティ豊かであっても、話しだけのことであれば単なる面白い人で終わります。面白い組織にするために、既存の体制や、他の会社の例だけに頼らず、自身で、自社のチームで、面白くできる環境を整えるという実際の行動が必要となります。商品企画、営業、仕入、経理、総務などなど、職種それぞれを観ても、社長のクリエイティビティが考え方として一貫する組織、そういう会社組織、新人だけでなく、社員皆が知恵を振り絞る面白い会社になるのだと感じます。