可能か不可能かを問い続けるのでなく、目指す姿(ビジョン)を改めて想い直して、できることからし始めてみませんか。モヤモヤ、ハラハラする思いをワクワクに変えて仕事に取り組む、そういうビジョンを目指してPDCAサイクルを回し続ける(VPDCA)、小企業・個人企業の考え方と、そのためのExcel活用方法を説明します。
小企業ビジョンドリブンPDCAの意味
モヤモヤ、ハラハラというのは、心身のアンバランスから感じるシグナルです。このままではちょっと具合が悪いから、自分にとって、もっといい状態になるよう、心身を整えた方がいいと教えてくれています。
ビジョンドリブンの考え方
ビジョンドリブンというのは、ビジョン(ありたい姿)をきっかけとして他のことがらを考えたり、行うことを指します。
こうありたい、ああありたいというWANTを、知っていてできると思えるCANと合わせて、すべきことのMUSTととして意識し直し行動する、その様子は、知情意という考え方のように、どれかひとつだけあれば十分というのでなく、人はそれらが揃って初めて気持ち良く生きていけることを表しています。
胸に抱く想いなどの情が、頭にある知識や考えの知と共に、肚に落ちる覚悟という意になって、人は一生懸命に生きられると考えられるのではないでしょうか。
モヤモヤ、ハラハラとは、「わかっちゃいるが・・・」と悶々とする様子を表現しています。「知行合一」という言葉があるように、行動しなければ知るということにはならないということを、心身の不協和音として教えてくれているようです。
何を望むのか、なりたい姿、ありたい姿は何なのか?を捉え直してみて、現在の姿を良く観て、比べると、その間にあるギャップが自然に見えてくるようになります。目指す姿に向かうとは、そのギャップを解消したり、対応することであり、そうしよう、そうする!と覚悟することで、知情意のバランスが整い、無我夢中に行動していけるようになります。その行動に没頭し、時に知を再確認し、時には、意を省みる、そして、情と照らし合わすことという繰り返しの中で、自負や使命、矜持というものが育ってくるのでしょう。
自分が使いやすいVPDCAを考える
ビジョンドリブンには、難しく考えず素直に、ありたい姿をリラックスして思い直すという意味も含まれます。せねばならない!できるはずだ!と持てるエネルギーを集中しようとするのでなく、シンプルに、楽しく思考を発散させることからし始めてみるということです。
こうありたいという姿を胸に感じながら、想いを言葉、数字、画像などでできる限り表現してみます。そして、今、現在の姿も同様に表現します。調べてみて確認するということもあるかもしれません。その両方を見比べれば、そこに隔たり、ギャップというものが自然に見えてきます。
ギャップは、目指す姿に至るために解消し、対応すべきことがらとなります。それらをどうすれば解消できるかを考えてみます。抽象的なことを具体的に、大きいまとまりを細かく分解、順番や視点を変えてみる、または、その反対のことをするというように、両手の上でものをゴロゴロと移し替えるようにして考えます。ただ、ビジョンの現実化を目指すということを忘れないことです。対応するための対応、手段が目的にならないこと、つまり、お役所化しないように留意します。
シンドイ時は、深呼吸します。背筋を伸ばしてから長く深く息を吸い、長く深く息をはきます。息を吸うこと、はくことに意識を集中させると、体も気も落ち着いてきます。
感じ、想い、そして、考えたことに、ビジョンとPDCAを当てはめて捉えます。
ビジョンという、ともすれば抽象的な想いを、具体的に捉えられる現在と対比することでギャップが自然に見えてきます。それをよく観て、抽象的なものを具体的に砕き、きざみ、できることを探し出します。すぐにビジョンを実現できないと感じられても、それ故に、ビジョンであると想い直し、目指す姿に向かう風を起こすのです。風は吹くから風なのであって、吹かなければ風は存在しません。計画はこうあるべき、行動はこうすべきと捉えずに、ギャップを解消し対応する、自分のユニークなしくみや方法は何かを考えるようにします。それが、自分の行動にもっとも使いやすい考え方になります。
「段取り八分」という言葉があります。解消方法、対応策を具体的にすればするほど行動に移りやすくなることを実感してください。行動に移りやすいということは、ほぼ、点検のしやすさにもつながります。点検がしやすければ、修正や改善を考え始めることも行うのもすみやかに行えるということです。
修正改善を考えにくい、点検しにくい、行動しにくい・・などと感じる時は、流れてくる仕掛品の具合が悪いと捉え、順番を遡って、前のプロセスを良く観直します。次のプロセスで、より使いやすく、取り掛かりやすくするように工夫していきます。
小企業Excel活用の意味
Excelは、知らない人はいないというくらい一般化したアプリケーションソフトです。まず、手元にあるExcelが、VPDCA運用、経営・業務支援の強力な道具になることを再認識し、活用することが、IT活用、あるいは、DXへ向かう一番実効力のある実践的な方法となります。
ExcelでVPDCAの思考と行動を助ける
Excelは優れた描画機能とグラフ機能を持ちます。データをすぐに視覚化することができる訳ですが、言葉や数値だけでは分かりにくい情報やデータを視覚化すると、とてもよく思考を助けてくれます。
例えば、3つのデータの関係性をバブルチャートにすると、数値や言葉だけで読み取ろうとするより早く、直観的に要素の繋がりをつかむことができます。
また、これまでの期間の経験を棒グラフで鳥瞰すれば、特定の時期との関係が見えてきます。
Excelは、これらのように、とても簡単にデータを視覚化する機能を持つので、VPDCAを考案、思考する際の打ってつけの道具となります。
また、日々蓄積される伝票データなどを取り込むことで、同様の機能で実績や推移をとても掴みやすく表現することができます。
最近のExcelは、Power Queryが標準機能となり、追加データを取り込み自動的にデータベースに反映できるため、都度グラフを作り直す必要はなくなります。また、フィルター機能によって、必要な項目だけのデータをすぐに参照することができます。上図に新たなデータを追加し、分類の「野菜」ボタンをクリックして、「野菜」だけのデータを表示させると下図のようになりますが、データ追加からこのように表示させるのに数分もかかりません。
Excelは、VPDCAのそれぞれのステップをデータの裏付けを持ちながら進める、とても強力な道具になります。
業務や思考を助ける道具としてのExcel
Excelは、多様な業務を支える道具としても利用できます。関数、ピボットテーブルなどの機能を使うことで、単に一度限りの作表のためだけでなく、入力によって、その他の指標がどのように変化するかをすぐに計算表示させて、シミュレーションしてみるというようなインタラクティブな使い方もできます。下図は、ドル建て原価の製品が、為替レートや輸入諸費用の金額変動によって、日本円にし直した原価がどのように変化するかを一覧できるようにした表の例です。為替レートの金額の値を変えることで、最終原価がどのように変化するかがすぐにわかるようになります。
Excel活用のVPDCAのイメージ
Excelを活用しながら、ビジョンを目指すPDCA(VPDCA)のイメージは下図のようになります。
- 今の能力に対して、チャレンジ度が高すぎる対象に挑むと不安ばかりがつのります(ハラハラ)。持てる能力を十分に発揮させなくてもこなせる対象に従事していると退屈になります(アキアキ)。ハッキリしないものの気持ちが落ち着かないことがあります(モヤモヤ)。いずれも、知情意がかみ合わずバラバラになっている状態を示すシグナルです。したいと思うこと、できると知っていること、しようとする意思がまとまらない様子ということもできます。
- ありたい姿(ビジョン)を改めて認識してみると、今の姿との隔たりが自然に見えてきます。その隔たりを埋めるために必要な能力や環境などを、どうすれば獲得、実現できるかを、できることからし始めようと考えることが、そのままPDCAのPにあたります。Pは今の能力を最大限利用することで何とか達成できる対象への道筋となります。中身を砕いて、刻んで細かく観ることで、行動がよりしやすくなります。
- PDCAのDを通して、うまくいくこと、うまくいかないことが分かってきます。Dを省みるCというステップで、PとDの比較だけでなく、VとPとの関係についても思い返すことになります。いずれのステップの考え方や表現の仕方、そして、行動そのものに工夫すべきことがあると意識すれば、新たなAという行動に、これまでとは違ったやり方で臨むことになります。
- その繰り返しによって、確信し決意を抱くことが、自負、矜持、使命を持つと言う様子になります。それは、したい、できる、すべき、あるいは、知情意のような区別がなくなり、自分に必要なことに集中するという意識と行動になります(ワクワク)。
フロー概念
人の幸せという感情を研究する心理学者チクセントミハイ教授は、フローという概念を提唱しています。チャレンジとスキルのバランスの中に、時空間を忘れて行動に熱中するフローという領域があり、そのフロー域での活動の時、人は幸せを感じるという考え方です。
教授は、フロー域の活動の状態を以下のように取り上げています。
- 今すべきことをハッキリと意識している
- 行動を評価する基準をもっている
- チャレンジとスキルがバランスしている
- 熱中している
- 今に集中する
- 行動がハッキリと意識される
- 時間の感覚が変わる
- 全てがひとつに感じられる
成長し続けるというイメージ
VPDCAというのは、海外で活動する際、全く経験したことのないものごとが対象課題となり、思考停止になった体験から発想するようになった考え方です。PDCAは、Plan(計画立案)→Do(実施活動)→Check(実績点検)→Action(改善改良)というサイクルを回転させることで、より良い状態を作り出そうとする考え方と活動の流れを言いますが、計画立案の目的が、それまで抱いていたものとは異質のものになったり、目的と思っていたものが失われたと感じたりすると、PDCAを考えることができず、思考も行動も停止するということがありました。課題が高すぎてハラハラするのは避けたい状態ですが、目的が見えずにオロオロするのはもっと嫌な状況だとつくづく感じたものです。
そもそも論を自問するということがあまりなかったこともあり、停止状態から動き出すのに時間がかかり、動き始めはとてもシンドイ思いをします。動けるようになるのに、一体、何を目指しているのかと根本的なところから問い直し頭の中を整理することはとても有効であると実感しますし、カチカチとしたPDCAを最初から作ろうとするのでなく、まず、IDEA、Interest-Do-Emotion-Actibation、関心に従って-ちょっとやってみて-どんな感じかを良く知って-PDCAを起動しようと、自身を励ますことも必要となっていました。
文字通り、ひとり悶々としますが、そういう時、頭の中で考え続け、もうひとりの自分と問答を繰り返すだけでなく、ノートに頭の中の言葉を書き出し、絵で表現したり、また、書かれたものを朗読することが、一種のストレス解消法となりました。そして、それらを元にExcelを使って、実際に蓄積されたデータと突き合わせ、より仔細に描画するなどを繰り返すと、バラバラであったものが、不思議なくらい次々とまとまったもんです。
そんな体験、実感をまとめたものが、上図のExcel活用のVPDCAのイメージとなりますが、言葉で簡単に言うなら、それは、ありたい姿を目指して成長し続けるイメージというものになります。
改めてビジョンから見直す、ビジョンドリブンPDCAサイクル=VPDCAを試してみてください。もっと早く試せば良かったと思って頂けると思います。