私の場合、これまで、中小企業、それも、どちらかというと小規模の組織に関わることが多かったため、個人としてだけでなく、組織としても、未経験の課題にしばしば遭遇することになりました。全く新しい課題の対応を迫られるのですが、社内に前例となる情報が存在せず、かと言って、社外から同様のケースに対応した情報をタイムリーかつ十分に仕入れることができないというのは、ヒト、モノ、カネ、そして、情報と、それぞれの資産や蓄積が、文字通り、「小さい」が故のことでありました。
「小さい」からこそ、枠にこだわらない発想と小回りの良さを持っていたと、負け惜しみではありながら言上したいところですが、ここでは、もうひとつ、もっと重要なものとして、希望というものについて記しておきたいと思います。組織は基本的にボスの意思と希望で運営されています。ボスの意思と希望が、従業員に共感されることで、組織は一丸となって活動するようになります。そのきっかけは、未経験の課題に対応しなければならない時に育まれたりします。
生産工場消失!納期まで45日
従業員15名と、小さい組織ではありながら、大手企業に製品を供給し、30億円の年商を持つ会社がありました。この会社はファブレス企業、いわば、生産を外注する専門商社のひとつでした。大手企業との年間契約に基づき、いくつかの生産工場に対して、大量の商品製造を発注していたのですが、ある日の早朝、メイン商品の生産工場で火災が発生、工場が消失したと、寝耳に水の連絡が入ります。
ボスは日ごろと変わらず、淡々と経緯説明し、対応協議を求めます。協議のリード役たる、幹部で最も古手の人物が、説明を聞いている途中から茫然自失の状態となり、ボスの説明が終わっても無言のまま、宙を見つめたままです。ボスが静かに促すと、彼が最初に口にした言葉は「俺らはもうダメだ!」だったのです。
すると、ボスはカラカラとさも愉快そうに笑い声を上げました。「アハハハ、そうだ、もうダメだ!という状態だ!」その幹部だけでなく、その場にいた全員が、ボスは乱心したと思ったに違いありません。
「そうだ!俺もそう思う。こんなことは生まれて初めてのことだ。お前の言う通り、もうダメだ!と言いたくなる。しかしだ、俺は、この注文を下さったお客さんに、ただ単にダメですとは言いたくない。収益や利益をなくしたくないと思う以上に、あいつは、もうダメだ!と言い、去って行ったとは言われたくないんだ。」
むしろ朗らかなボスの声を聴きながら、全員の目に光が戻ってきました。数分に過ぎないミーティングでのボスの言葉が、意気消沈していた空気をサッと吹き払い、各自がそれぞれの持ち場で、情報収集と現状理解に一丸となって行動し始めることとなります。納期まで45日、その時間を少ないとも、十分とも感じることなく、ただひたすら行動することに集中することになりました。
想像より、完成品や仕掛品の被害が少なかったことや、他の工場の協力支援を円滑に受けられることになったことなどが幸いであったのですが、ボスの前向きで、真摯な姿勢や言葉が幸運を呼び込んだという視点を忘れることはできません。火災が発生した工場をねんごろに見舞い、支援してくれる他の工場の生産現場に足しげく通い、社員とは、胸襟を開いて話し合い、励ましました、物理的な現実としての結果や状況とは別の視点、人の思いや感情に響く行動があったればこそ、損害を最小限にし、その後はむしろ、取引先や協力工場と、そして、同じ会社の社員同士、より深いコミュニケーションを可能にする絆を創造することとなったのだと感じるのです。
会計システム破綻!7日後に月次会計報告
海外工場三代目のディレクター(現地社長)が、日本から新しいボスとして赴任しました。現地スタッフは、今度の責任者も前任者同様、事務所内だけの仕事に終始するだろうから、これまで通り、事務所内の発言だけに留意し、黙って自分の仕事に集中しておれば大過はないだろうと想像していました。
前任者である歴代の現地社長は、いずれも大手総合商社の海外勤務経験者でありましたが、新任のボスは、本社中小企業で営業職や支店長職などを経て、始めての海外赴任に着任した人物です。良く言われるように、文化の異なる海外での活動で、カルチャーショックを多く持つこととなりましたが、その分、これまでの経験などに惑わされないフレッシュな考えを持つことができたと言えます。一般的に、日本本社>海外工場という図式で論じられる関係を、できれば、本社>=海外工場と表現し得る体制はどうあるべきかを思い描きながら海外へ赴任しました。
任地での活動開始に当たり、業務引継ぎの節目を明確にするため、まずは、実地棚卸から執り行うこととしました。ディレクター自らが実地棚卸を行うということに、現地スタッフから驚きの声が上がるのを聞きながら、前任者ディレクターは「偉い人」であり、棚卸に立ち会うということもなかったのだろうと想像します。未経験の海外勤務とは言え、日本と同様、基本を基本として行う体制づくりが必要であることを体感します。指示すれば、きちんとした在庫数が上がってくるというのであれば、その人は実に幸せな環境にあると言えます。中小企業に、最初から棚卸専門家や倉庫管理専門職というものは存在するということはありません。中小企業において、指示して指示通りになるということは稀であることを十分に経験してきた者であれば、日本であろうと海外であろうと、実地という言葉のように、管理者が現場で取組み、参画し確認して、都度、必要と思われる、棚卸の方法、商品、資材の置き方などやその理由などを具体的に紐解きながら教えてやる必要があります。
結果として、帳簿との在庫数違算を確認、また、仕掛評価額が必要以上に大きい値であることなどを発見しました。帳簿在庫額は実態より大きい値であること、大きな在庫違算修正のため、赴任当月で大きなマイナスを計上することなどを、自分自身で確認した結果として、日本本社に報告します。案の定、日本では、新任の現地責任者が赴任早々大きな赤字を作ったと評判になり、海外活動不適格者であり、早期帰国など関係会社から要求されることになりました。しかし、本社大ボス自身は、十数名の社員の会社で、数十億円の商い、海外現地法人設立に至るまで、小さな会社の実態を知り尽くした人物です。「目先、損失分のリカバリーに集中せよ」とのみ指示がなされました。
ただでさえ在庫違算で騒がしくなった訳ですが、会計帳票を調べる内に、システムに異常がみられることが確認されます。経理責任者に問うてみると、会計システム異常については、半年前に既に報告済であり、前任者からの指示待ちとなっていたとのことです。その後はやむなく、経理の現地社員二人で、月次会計資料を、Excelを使ってマニュアルで作成してきたと言うのです。改めて「偉い人」の置き土産に驚くこととなりました。
新しいボスは、着任早々、最初の月から会計報告書作成を、経理の協力を得ながら、自分自身で取り組むことになりました。これまでも、Excelで財務諸表などを制作してきた彼らに、簿記ついて教える必要はありませんでしたが、Excelの関数、ピボットテーブルを利用することで、もっと効率的に望むデータを作成できること、仕訳データがあれば、半日から一日で、Excelを使って財務諸表を作成できることを教授することができました。新任の現地ボスが、自らその操作を行い、方法などを説いて教え、繰り返し資料制作を重ねることでアッという間に関数などに習熟していきます。ボス自らが横でキーボードを叩いているため、定時に帰ることができませんが、ボスが決して「偉い人」でないことを肌で感ずるのか、経理担当のふたりは嬉々として、残業を厭わず、会計業務に勤しみました。
経理だけでなく、社内のどこであろうと、小銭など現金を放置しないようすること、出社、退社、帰社など社員同士元気に挨拶を交わすことなどと、矢継ぎ早に新しい、けれど、誰でも分かる平易な言葉による指示が周知されるようになり、どうも新しいボスは違うかも知れないと、ローカル社員全員が勘づき始めるようになります。中でも、新任のボス=現地社長が、全社員と同じ食堂で同じ昼飯を食い、慣れない現地語で会話しようとするということが、一番のインパクトになったのかもしれません。新任ボスは、同じ昼食を社員と共に食べた直後、昼食の質と量の改善を総務に指示しました。
始めての未経験の課題を前にして、新任ボスは困惑することが多くありました。分からぬものは分からないと覚悟し、分かることから始める、それだけのことがスタートの全てとなりました。そして、日本でも常に思いあぐんでいた、本来、仕事はどうあるべきかを、ローカル社員に、知る限り教え、示し、日本本社の社員と、自然に、肩を並べて話合えるよう、一緒に成長することを説いて回りました。
外国人の、しかも、上司となれば、そう気安く簡単に日ごろの心情などを吐露できる相手ではありません。しかし、人は、共に、良く働こうという姿勢を示す相手には、自然、仕事のことはもちろん、日ごろの悩みなどの相談を持ち掛けたくなるものです。そこには、もはや、上司や部下という関係ではなく、経験者と未経験者の小さな差があるだけで、場合によっては、いろいろな経験を持つ者であっても、始めての、まだ経験のしたことのない状況で、教えながら、教えられるという不思議な体験を持つきっかけになることがあります。
いろは~IROHA
工場に火災が発生することはないだろう、海外に赴任することはないだろう、前任者と同じように行えば無事だろう・・・人は、変化しないことを前提にモノゴトを考えることが多くあります。これまで通りと考え、今まで通りに留まっていられるなら余計なエネルギーを必要としません。エネルギーを消費しないということはとても楽であり、人はそうありたいと願うものです。
自動車は動き始め、飛行機は離陸する時に最も燃料を消費します。未経験の課題に対応するということは、変化を必要とする時であり、止まっていたものを動かすという状態のことを指しています。それには、これまでとはいささか異なるエネルギー消費が必要です。面倒くさいものであり、億劫なものです。
しかしながら、ダメだとか、できないとか、あるいは、売上や給料が上がるわけでもないとか、何も変わらないと考えるのでなく、そもそも、世の中のことは全て変わる、変わっていくのだと思い直し、面倒なことにも、いずれは慣れると知ることで、まずは見方が大きく変わります。良い方に変わるのか、良くない方に変わるのかと問う必要はありません。今どうしたいと思うのか、できることは何か、変えられるものと変えられないものは何かを考え、自分で関わり、取組むだけです。
- Idea
- Research
- Observation
- Hope
- Action, Acceleration
- 全ては変わると知り、どうありたいかを考え
- 知ろうとしなかったこと、知らなかったことを調べる
- 今の環境や条件、自分の考えをまっすぐ観察する
- より望む方向に変わる、変われると期待する
- やってみる、自他を励ます
いろはをIROHAと頭文字語として捉え、全ては変わると心得、希望に向かう具体的な行動を見出す考え方の縁にすることができます。
IROHAプロモ―ティング
悩みあぐねるハラハラドキドキを払拭し、ワクワクドキドキと行動できるように後押し、プロモーティングを提供致します。無料相談を致します。忌憚ない思いや考えを・・・