
その会社は、電気工事業者です。日頃から社員が取得した資格を管理し、工事が決まれば、作業者名簿の資格欄に、適する社員の資格を選んで入力します。資格が数個なら、書き換える必要はないのでしょうが、社員個人の、免許・技能・教育講習の資格数が10個、20個となると、全部表示するわけにもいかず、かと言って、工事の種類によっては、表示すべき資格が異なるので、都度、書き換えることになります。
手間がかかるこの作業を、Excelで、あっと言う間に完了できるように組み直します。もっと簡便に、効率的にするというわけですが、しくみを作ることで、トライアンドエラー、してみて、具合が悪ければすぐ直すということができるので、社長の属人的業務になっていた仕事を、どの社員でもできるように標準化することができます。標準化というと、何やらたいそうな感じに聞こえますが、Excelをデータベースの道具として使うと言い換えれば、すぐに作れると思えるはずです。(Excel 2021/Microsoft 365 Excelを使う例です)
資格証を作業者名簿の資格欄に半自動転記する
データベースとして使うということは、一度、入力されたデータ(文字、数値、画像など)は、何度もコピペしたりせずに、そのまま利用できるようにしくみを作ることを言っています。
社員が資格を取得する度に、資格一覧に明細と資格証の画像を入力/登録しています。これまでは、その登録された資格名や画像を、必要に応じてコピーし、作業者名簿の資格欄と、名簿用の付属書類、資格画像一覧に張り付けていました。作業途中や作業後に修正があると、画像を間に挟むために並び替えをし直したり、初めから作り直しということになり、半ば定型の文書と画像一覧を作るだけのことですが、なかなかの手間となります。この作業を、Excel 2021(または、Microsoft 365 Excel)を使って、表示したい資格を指定するだけで完成できるようにします。
これまで
- 資格取得社内資格証登録
社員別、資格証明細、画像を、資格一覧に入力
- 名簿資格入力資格名コピペ
資格一覧から、必要資格名をコピペ
- 名簿画像作成資格証転記
資格証一覧から、必要資格画像をコピペ、名簿用資格一覧を作成
これから
- 資格取得社内資格証登録
社員別、資格証明細、画像を、資格一覧に入力
- 名簿資格入力資格名転記
Excelで表示指定
自動抽出 - 名簿画像作成資格証転記
資格入力と同時に
自動抽出
社内の資格一覧表作り直し
これまでの社内の資格画像のファイルは、下図のようにExcelで作られています。

- A4紙に印刷する際、4~5個の、表面と裏面の資格画像が1ページに入るように設定
- 新しい資格が取得されると、最後尾に追加登録
- 画像はセルの上に張り付け
いわゆる、「紙エクセル」としての使い方になっているため、再利用するには、必要な画像をコピーして、他の場所に張り付けるという作業が繰り返されることになります。また、特定の資格証をさがすには、画像ひとつひとつを観てさがすということになります。
今でも、「Excelを使う」というと、このような、「紙エクセル」の方法を思い描く人が少なくありません。そのためか、「Excel活用」といっても、今更感を持たれることが多くあります。
この、これまでの資格一覧/画像ファイルの内容を改めます。まず、右図のように、資格マスターという一覧を作ります。資格名には、とても長い名前のものや、同じ名前でも、1級、2級などの等級別になったものなどがありますが、それぞれに一意の資格コードを作り、コードで識別できるようにします。また、資格名、取得年月日などの一覧と資格画像を一緒にして、下図のように資格画像はセルに埋め込むことにします。

資格マスター

上左側の画像、A列にコードを入力すると、B列、C列に、コードに相当する分類名、資格名が表示されるよう、資格マスターを参照する、xlookup関数式を組みます。資格画像は、表面も裏面も、セルに埋込むことで、1行1資格、1レコードの表示になります。こうすることで、新しい資格明細を最後尾に追加しても、いつでも、コード順に並べ替えたり、フィルターをかけて、分類別に表示したりできるようになります。
作り直した表を、テーブル化し、テーブル名も、シート名も「資格一覧」としておきます。

作業者名簿のひな形シート
作業者名簿は、下図、「全建統一様式第5号」というエクセルシートで作るよう指定されています。

一度、入力しておけば、ほとんどの明細は書き換える必要はないので、そのままひな形として使えるのですが、これまで、上図、赤枠の「教育・資格・免許」欄を、工事案件ごとに、手入力で内容を変更していました。これを、表示したい資格を選択すれば、選択された資格名が、この欄に表示されるようなしくみにします。と同時に、選択された資格の画像が、名簿の資格欄の順番で並べた一覧表も完成できるようにします。入力できる部分は入力をして、この第5号様式は、ひとつのシートにしておきます。
作業者名簿用の資格名を抽出するシート
別の新しいシートを追加し、名前を「名簿資格名」としました。このシートで、作業者名簿に表示したい資格を選択し、選択された資格名だけを抽出するしくみを作ります。
行1には、「資格一覧」の項目名から、値だけコピペします。A2セルに…
=資格一覧
と入力すると、「資格一覧」テーブルの内容が全て、そのまま表示されます。行列幅を広げれば、画像を、「資格一覧」シートのように、大きく見やすく表示できますが、このシートでは、資格名の選択をして、選択した資格名だけを抽出するので、画像は気にせず、このままで進めます。

社内の資格一覧、資格コードは、重要度の高い、免許、技能、特別の順に作っています。しかし、作業者名簿の資格欄は、何故か、その逆で、特別、技能、免許と左から順に入力するようにされているので、作業者名簿用の順に並び替えられるように、H列に「分類順位」という列を作ります。I列は、作業者名簿に表示したい資格をチェックする列で、項目名を「名簿表示」としておきます。
H2セルに以下の数式を作り、H50セルまでコピペします。
=IF(B2=”免許”,30,IF(B2=”技能”,20,IF(B2=”特別”,10,””)))&A2

IF関数式(入れ子)&A2
大きくくくるとこのような数式となっています。IF関数式の結果とA2、資格コードをつなげた文字列を表示するという意味です。IF関数式の中に、別のIF関数がふたつ入れ子になっていますが、これを、意訳すれば、「B2セル(分類)が”免許”なら、30を、”技能”なら20を、”特別”なら10を表示し、どれも該当しなければ、””(空欄)にする」ということになります。30、20、10でなく、3、2、1をつなげても、特別→技能→免許と分類が並べ替えられれば、どれでも構いません。
「50行目までコピペ」というのは、登録資格総数が50個を超えることはないだろうという予想から50行目までとしたことです。もっと多くしたい場合は、100行目、あるいは、500行目くらいまでコピペしても構いません。後で数式を変更することがないようにしたいだけです。
「名簿表示」の列には、今は何もしません。
下図のように、1行目に、「特別」、「種別資格名」、「技能」、「種別資格名」、「免許」、「種別資格名」と項目名を作ります。J列、M列、P列を空けていますが、空けなくても構いません。見やすくしているだけです。「種別資格名」という項目名は単に「資格名」でも何でも構いませんが、「特別」、「技能」、「免許」の項目名は、B列の「分類」項目にある文字と符号する文字を使います。

最初の「特別」列のK2セルに、以下の数式を作ります。
=IFERROR(FILTER($B:$C,($I:$I=1)*($B:$B=K$1)),””)
入れ子の数式です。以下のように分けて捉えられます。
- IFERROR(FILTER関数式,””)
- FILTER($B:$C,($I:$I=1)*($B:$B=K$1))
1式は、IFERROR関数です。第1引数、ここではFILTER関数ですが、この結果がエラーであれば、第2引数である「””」を表示する、つまり、空欄にするという数式です。
2式は、FILTER関数です。第2引数にある、I列が「1」で、かつ、B列がK1セルと同じ「特別」である行の、B列とC列の範囲、つまり、「分類」と「種別資格名」を表示するという数式です。

「K$2」と複合参照にしているので、このまま、この式をコピーして、「技能」のN2セルと「免許」のP2セルに張り付けます。

ここで、試しにI列、「名簿表示」列の任意の場所に「1」を入力してみます。「1」が同じ分類項目列に表示されていれば、数式は意図した通りになっています。

試しに「1」を入力した、上図の状態のままで、T列から項目名だけ、下図のように、先に入力しておきます。

V3セルに「特別」の各資格名を連結する数式を作ります。

=TEXTJOIN($U$2,TRUE,(L$2:L$50))
複数の文字列を連結する、TEXTJOIN関数です。第1引数は連結する文字の間にはさむ文字を指定しますが、ここでは、U2セルを指定しているので、U2セルに入れた文字が間に挟まれることになります。今は、何も入力していないので、挟む文字はありません。
第2引数に「TRUE」を指定して、空のセルは無視します。第3引数が、連結する範囲です。「分類順位」列のIF関数式をコピペした行まで範囲指定します。
同様に、「技能」のV4セル、「免許」のV5セルにTEXTJOIN関数式を作ります。第3引数の範囲指定の部分だけが異なるだけなので、コピペして、第3引数だけを書き換えます。

関数式を入力し終えると、先ほど、試しに、「名簿表示」列に「1」を入力した資格名が表示されるはずです。「結合記号:」のU2セルが空なので、資格名がくっ付いて表示されています。

U2セルに、半角「_」を入力すると、資格名連結の間に「_」が挟み込まれて表示されます。半角スペースを入力すれば、資格名の間が半角スペース分空けて表示されることになります。

「作業名簿」シートを開き、「免許」の下の結合セルに「=名簿資格名!V5」と入力して、上記の連結文字のV5セルを参照させると、連結された資格名が表示されます。

「作業名簿」シート、「技能講習」の結合セルには、「=名簿資格名!V4」
「作業名簿」シート、「特別教育」の結合セルには、「=名簿資格名!V3」
と入力します。
こうして、「名簿資格名」シートの「名簿表示」列に「1」を入力するだけで、作業者名簿の資格欄に資格名が表示されるようになります。残りは、その資格画像の抽出です。
作業者名簿用の資格画像を抽出するシート
「名簿資格名」シートの中に、「分類順位」という、名簿用に並び替える文字列を作りました。この文字列の順番で資格画像を並べて一覧にします。
新しいシートを追加し、シート名を「名簿画像」として、A1セルに次の数式を作ります。
=SORT(FILTER(名簿資格名!F:H,名簿資格名!I:I=1),3)

数式を確定すると、すぐに、結果が表示されます。
上の数式を分解して捉えます。
- SORT(FILTER関数式,3)
- FILTER(名簿資格名!F:H,名簿資格名!I:I=1)
1式のSORT関数式は、第1引数の配列を、第2引数の列番号(または行番号)を並べ替えの基準として表示する関数です。ここでは、FILTER関数の配列の3列目(分類順位」列)を並べ替えの基準として表示するということになります。
2式FILTER関数は、名簿資格名シートのI列(「名簿表示」列)に「1」が入力されている行を、F列からH列の3列分(「証書表」列、「証書裏」列、「分類順位」列)抽出する、という関数です。
今は、免許分類のふたつだけの「名簿表示」に「1」が入っています。試しに、技能、特別分類の資格の「名簿表示」に「1」を入力して、「名簿画像」シートを開き直すと、例えば、右の画像のようになります。

「名簿表示」に「1」が入力された資格の「証書表」、「証書裏」、「分類順位」が表示になり、3列目の「分類順位」の順番に並び替えられています。これで、作業者名簿の順番に証書を確認できる一覧となります。

画像が小さいので、行列幅をそれぞれ拡大し、A列とB列だけを印刷範囲として設定すれば、左の画像のような、A4紙出力ができます。
「作業名簿」シートも確認してみます。右図のように、各分類ごと、「名簿表示」に「1」が入力された資格名が表示されています。

以上、これで、名簿に表示したい資格の「名簿表示」列に「1」を入力するだけで、作業者名簿の資格名欄に資格が表示され、同時に、同じ順番に並び替えられた資格画像一覧が出力できるようになりました。
資格一覧のしくみを使いやすく
これまで作ったしくみで、資格管理がしやすくなり、作業者名簿の資格欄の表示と、添付の資格証一覧が半自動で作れるようになりました。しくみのために使った作業列などを非表示にして、しくみを運営する際に邪魔にならないよう、また、不注意で数式が書き直されたりしないようにします。

「名簿資格名」シートの、D、E、JからR列は、しくみ運用の際には使わないので、それぞれの列を選択して右クリックメニューから「非表示」をクリックして見えなくします。

「名簿表示」列に「1」入れた結果が、V列にすぐ反映するのを確認しながら、操作できます。
「名簿画面」のC列、「分類表示」列も見えなくて構いません。こちらも非表示にして、スッキリさせます。

さらに、使わないシート、日ごろは観ないシートも、タブを非表示にすることもできます。
Excelのデータベース活用でモチベーション、創造性を高める
他の記事にも記しましたが、インドネシア法人を管理している際、簿記を知らない新入社員でも、簿記を学べということでなく、Excelの関数やピボットテーブルなどの使い方を教示することで、数か月もすれば、仕訳データから、元帳、貸借対照表、損益計算書のデータを作るようになり、簿記の習得は、簿記の資格学習の他に、実務とExcel活用の知見の蓄積でも果たせると実感したことがあります。
故に、何でもそうだと思うのは早合点ですが、外貨簿記だけでなく、輸入品原価計算、工場仕掛品管理、月次所得税計算、変動損益予実運営など、様々な職種業務で、Excelをデータベースの道具として活用することで、多くの人々がモチベーションを高め、仕事に熱心になる様子を繰り返しみてきたため、Excel活用は、大きな機会創造にもつながると痛感しています。
この記事では、「全建統一様式第5号」という紙エクセルの様式に対応する、簡単なExcelのデータベース使い方の例を紹介したのですが、工事業者には、他に「工事台帳」、「施工計画書」などの要件があります。データベース、つまり、一度入力されたデータを使いまわすしくみを利用できる機会が、まだまだ多く残されていることを拝見し、それは、伸びしろだろうと感じられます。会社の規模に関わらず、Excelを活用し、モチベーション、そして、仕事や事業の創造性を高める機会があると思うと、気が躍る次第です。
- やり方が分からない → やり気を起こしようがない
- やり方は分かる → 単純作業で時間がかかる → 面倒くさい → やる気が起きない
- やり方は分かる → すぐできるし、すぐやり直せる → できる → もっとしたい
仕事はやり方を覚えることも大切ですが、やり方に磨きをかける、そのためのヤル気の向上や維持の方法が、もっと注視されても良いはずです。
陣中お見舞い申し上げます。お疲れさまでした。