輸出入業務の道具:Excel生産予定概要表

モノづくりでQCDということが良く言われます。Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)を意味し、お客さんに選ばれる製品づくりを考える際、製造業者が考える経営改善の骨子であると捉えられます。製造業という売る側が考えていて当然とされる要素ですが、時として、QとCだけに意識が行き過ぎ、やっと見つけたサプライヤーとの相談の際、Dについてはおろそかになってしまう場合があり、売手は買手の都合に合わせるものだと、日本の常識で早合点するのでなく、買手としても、QCDを良く留意すべきであったことを痛感、そう、文字通り、痛い思いをしながら反芻することがしばしばあったもんです。

納期確認を納期だけでなく、納期確定の前提となる生産予定から視覚化する、そのたたき台となる資料の例を、ここでは、生産予定概要表として紹介します。ガントチャートの一例です。項目名などを変えて利用してみて下さい。

生産・出荷予定交渉のたたき台:Excel生産予定概要表

生産予定概要表の中身についての紹介です。

週別生産予定概要

納期(ETA)は、それに先立つ、船積込み日、さらには生産の具合に依存すると遡って考えることができます。そのため、納期を確実にするため、生産予定の概要から見えるように資料を作成します。週別生産予定概要は、生産期間に相当する週が全体予定のどの位置に相当するのかを概観し、全体と部分の予定との関係を視覚化するものです。

下のExcelの例は、背景が白の部分だけに値を入力し、背景が薄いグレーの部分には式(関数式)が用意して、自動で計算、表示されるようにしたものです。

「週別」というように、「Week→」の下に並ぶ日付は週の始り月曜日の日付です。

「リードタイム」の右側、「30日」「3日」「21日」と表示されるのは、表示形式、ユーザー定義から「0 “日”」と設定したためです。「30」など数値だけ入力すれば、「30日」というように「日」を付けて表示されます。

  • リードタイム「30日」ETD:ETAに入力された日付から「30日」前の日付をETD日付として計算表示
  • リードタイム「3日」生産終了:ETD日付から「3日」前の日付を、生産終了日として計算表示
  • リードタイム「21日」生産開始:生産終了日から「21日」前の日付を、生産開始日として計算表示
Excel、週別生産予定概要のP表示式の画像
  • I3セルの式:=IF(AND(I$2<=$H3,$H3<J$2),”P”,IF(AND(I$2>=$H3,I$2<=$G3),”P”,””))
  • 式の意味:
    • 生産開始日の値が、該当する週日付の値(I2)以上、かつ、次の週日付の値より小さい場合に、Pという文字を出力
    • 生産開始日の値が、該当週日付の値以下、かつ、生産終了日の値が、該当週日付の値以下の場合、Pを表示
    • 以上が該当しない場合は空欄表示する

この式を他のセルにコピペするため、一部分、絶対参照値が入ります。

週別生産日概要

週別概要のため、営業日≒生産日の日数が見えません。そのため、生産開始日と終了日までの期間、該当週に営業日が何日あるかを視覚化させます。

セル背景が薄いグレーの部分は式が入力されています。画像例のように、全て式が予め用意されているので、この表のために改めて入力する必要はありません。上記、「週別生産予定概要」のために入力したデータをそのまま利用して自動表示します。

A列からH列、16行の値は、「週別生産予定概要」で入力されたデータをそのまま参照しています。

  • I17セルの式:
    =IF(I3=””,””,IF(AND($H17>=I$2,$H17<J$2),NETWORKDAYS.INTL($H17,J$2-1,11,Holiday!$A$4:$A$23),IF(AND($G17>=I$2,$G17>=J$2),NETWORKDAYS.INTL(I$2,J$2-1,11,Holiday!$A$4:$A$23),IF(AND($G17>=I$2,$G17<J$2),NETWORKDAYS.INTL(I$2,$G17,11,Holiday!$A$4:$A$23),””))))
  • 式の意味:
    • 週別生産予定概要の該当するセルが空欄の場合は空欄を表示
    • 生産開始日の値が、該当する週日付の値以上で、かつ、次週の日付の値より小さい場合は、生産日から次週日付-1の期間の平日(≒営業日)の日数を計算表示する。その際、日曜日と「Holiday」シートで指定した範囲の日付は祭日として除く
    • 生産終了日の値が、該当する週日付の値以上で、かつ、次週日付の値以上でもある場合、該当する週日付から次週日付-1の期間の平日(≒営業日)の日数を計算表示する。その際、日曜日と「Holiday」シートで指定した範囲の日付は祭日として除く
    • 生産終了日の値が、該当する週日付の値以上で、かつ、次週日付の値より小さい場合は、該当する週日付から生産終了日の期間の平日(≒営業日)の日数を計算表示する。その際、日曜日と「Holiday」シートで指定した範囲の日付は祭日として除く
    • 以上のいずれも該当しない場合は、空欄を表示

やはり、以上の式を他のセルにコピペするため、一部分、絶対参照値を入れています。

週別生産予定数概要

出荷元製造業者から聞き出したコンテナごとの生産期間から、生産開始日、終了日を想定して作表することになります。船積みはコンテナ単位で行うという前提ですが、製品のコンテナ積込み予定数を、想定生産日数、営業日で勘案することで、週ごとの生産完了数の概要を計算表示、視覚化します。

上記、週別生産日概要と同様です。セル背景が薄いグレーの部分には、式が用意されていて、新しく入力する値はありません。

  • I31セルの式:=IF(I17=””,””,I17/SUM($I17:$AE17)*$D31)
  • 式の意味:
    • 週別生産日概要の該当するセルが空欄の場合は空欄を表示、空欄でなければ以下を計算表示
    • 該当する週の営業日(≒生産日)÷営業日総数(≒生産日総数)x個数(≒コンテナ積込数)

製品別・仕向港順:Excel生産予定概要表

以上の生産予定概要は、作表の例の通り、コンテナNo.順、ETA順となっています。話し合うアジェンダによっては、製品別や仕向港順の資料が欲しくなります。もともとがExcelで作成した資料なので、Excelの「並べ替え」を使ってすぐに書き換えることができます。上記の説明の通り、入力する値は、週別生産予定概要のA列からE列だけで、週別生産日概要週別生産予定数概要は、その値を参照しているだけです。週別生産予定概要の表を「並べ替え」するだけで、製品別・仕向港順の資料を作成することができます。

Excel生産予定概要表:製品別

Excel週別生産予定概要表(製品別)の画像

Excel生産予定概要表:仕向港順

Excel週別生産予定概要表(仕向港別)の画像

Excel生産予定概要表サンプルファイル:ダウンロード

ヤヤコシイという抵抗感を払拭することがD管理の肝

QCDというキーワードは、製造業者の経営改善のためだけでなく、輸入の仕入交渉や成約の際の基本チェックポイントなどとして利用できる考え方です。どんな品質のものでも構わない、値段はいくらでも良い、あるいは、納期がいつになっても構わないというような輸入仕入は、基本的にあり得ない、なんてことを言うのは釈迦に念仏というものです。

  • QCはキッチリと確認したが、Dについては大丈夫、何とかできるという出荷工場の言葉を鵜呑みにしてしまい、最初のコンテナは予定通りでも、その後の納期は、期待から大きく遅れることとなったオーナー社長の課題
  • 社長が海外現地でQCについて合意し、後はシッカリと日本で管理せよと指示を受けたものの、そもそも、あるべきD概要については全く知らないままでいる輸入仕入担当者の課題
  • 仕入価格だけを交渉、合意することで評価される仕入担当者と、QとDは別部門が担うという組織体制の課題

売手側が約束した納期を守れないというような、明らかに社外に起因する課題とは別に、Dの確認不足の原因を自身や自社に求められる場合があります。交渉の詰めが甘かったならもっとキチンとするようにする、責任分散組織体制を改め集中させるなど、対応策は自然に思い描くことができますが、QCDのうち、QCやCについての確認、打ち合わせは良くできるのに、D(Delivery、納期)の確認がおろそかになるのは何故なのか?と質問を変えてみたらいかがでしょうか?

なぜ?なんで?どうして?と質問を繰り返して思いいたるのが、納期確認はヤヤコシイ、納期確認や打合せには時間がかかる、納期の詰めメンドクサというような抵抗感やネガティブな感情です。そう捉えると、「キチンとする」「集中する」という抽象的な表現の対応策が、納期確認と管理がヤヤコシクない方法、時間のかからない方法、メンドクサクない方法にと、もう少し具体的に表現することができるようになります。筆者がお話させて頂く会社は、比較的小さな会社ばかりであり、その方法はいつも、追加投資を必要としない、よりシンプルな方法が求められています。

Excelは、Wordなども同じく、今やどの事務所にも用意されている文房具のようなものになりました。少しだけ、日ごろあまり見たことのない関数の使い方を学び、最初のひな型を作る際はいささか時間がかかりますが、その後は、資料の一部を書き換えるだけで、予定全体などを鳥瞰できるようになります。ヤヤコシイものは、まずは「トリの目」で概要を捉えてから、「アリの目」で細部を見直し、「サカナの目」で経緯を時系列で追跡する・・・と言えば、やはり、釈迦に念仏となってしまうでしょう。

ヤヤコシイものをヤヤコシクナクする、メンドクサをメンドクサクなくする、その道具として、Excelの利用例を紹介しました。これを、Excelの学ぶ絶好の機会としても捉え直し、ササっとその概要を資料として制作し、理解できるように、可視化、数値化するということを試してみて下さい。

ここで紹介したExcel生産予定概要表は、納期確認、たたき台資料の一例です。これまでの会社業務の実例から引用していますが、その他にもいろいろな考え方や作り方があります。もう少しこうしたい、ああしたいということがあればご連絡下さい。ぜひ取り上げて参りたいと思います。

深く陣中お見舞い申し上げます。