お客さんの心のステイタスに合わせる活動がマーケティング

社員などチームメンバーが、共にチームのビジョンを目指して活動できるようになることは、チームにとって望ましいだけでなく、メンバーにとっても望む姿を目指す活動に集中できる、モチベーションを高く維持できる環境となります。

お客さんという人の心の状態にも、このフロー領域の考え方を普遍して、顧客のニーズとウォンツの枠組と重ね合わせてみると、以下のような図が想像できます。

購入行動とニーズ・ウォンツの構造図

あるニーズ=必要性と、あるウォンツ=欲求・願望がバランスし、それに見合う商品サービスが存在することで、購入という人の行動につながる訳ですが、末広がりのフロー領域を想像すると、購入行動が、新たな必要と欲望を生み、また別の購入行動につながることを図から想像されます。

商品企画というと、商品やサービスそのものの開発、改善、バージョンアップを相談することと考えますが、その商品を購入したお客さんのステージ位置、再購入・再々購入の違い、または、潜在的ニーズやウォンツの掘り起こしなど、モノと同時に、ヒトの心を想像し、検証してみるというプロセスがあれば、事業の可能性をより深めることになるはずです。

人のウォンツ

人の欲求や願望は多様です。欲求と言えば、心理学者アブラハム・マズロー氏の、誰でも聞いたことがあるだろう欲求段階説(自己実現理論)がとても有名です。

  • 生理的欲求(physiological needs)
  • 安全の欲求(safety needs)
  • 社会的欲求と愛・所属の欲求(belongingness needs)
  • 承認・自己承認の欲求(esteem needs, self-esteem needs)
  • 自己実現の欲求(self-actualization needs)
  • 自己超越 の欲求(Self-transcendence) 

有名であるため、誰もが確立した基礎理論のように捉えてがちですが、時代遅れ、西洋文化的視点に偏向、科学的実証性に乏しいなど批判的な見方をされている、ひとつの学説であることも知っておきたいと思います。心理学の成果ですが、経営やマーケティング理論に利用し易いのでしょう。販売・マーケティング論なるものに多く転用されています。

食欲・性欲・睡眠欲・承認欲・優越欲・達成欲・支配欲・服従欲・物欲・名誉欲・怠惰欲など欲にはいろいろな種類がありますが、仏教では大きく5つに分類していることも参考になります。

  • 財欲
  • 色欲
  • 名誉欲
  • 食欲
  • 睡欲

人のニーズ

ニーズもいろいろと言われます。

  • 顕在ニーズ、潜在ニーズ
  • 機能的ニーズ、情緒的ニーズ

ニーズの和訳は要求、需要などとなり、ウォンツ(欲求)との境目が曖昧な言葉です。

「人々が欲しいのは1/4インチ・ドリルではない。彼らは1/4インチの穴が欲しいのだ(People don’t want quarter-inch drills. They want quarter-inch holes.)」

セオドア・レビット教授は「マーケティング発想法」の中で、ドリルを必要とする人の欲求について指摘する言葉ですが、とても参考になります。

B2B取引をする人は、仕入担当者に如何に気に入ってもらうかについて、日々心を砕いていると思います。担当者は品目別に配置されていることが多く、自社商品を分類範疇とする担当者と商談を繰り返しますが、商品そのものの必要性だけでなく、担当者の欲求についても同時に研究するに違いありません。「気に入ってもらう」とは、最終的に仕入れの決定をする際に大きな決め手となる要素となりますが、提案商品を「気に入ってもらう」のか、提案する自分のことを「気に入ってもらう」のか、あるいは、提案するしくみを「気に入ってもらう」のかなど、これもいろいろな種類があると考えることができます。ニーズを明らかにしながら、さり気なくウォンツも満たすことを表現できれば、「気に入ってもらう」確率は高くなります。

経営もマーケティングも人のために行う経済活動

経営とは、人が人と共に行う、人のための経済活動と捉えられます。経営の要となる営業、マーケティング業務も、同様に、正に「人のため」に行われる活動です。

「人のため」にとは、人のウォンツとニーズを満たすためにと言い換えることができそうです。日本には、「商売」という経営とマーケティングを融合させたような考え方があり、商人の家伝には「三方よし」と言われる哲学も伝わる土壌があります。「人のため」という観念は文化的に受け継がれた背景が整っており、受け入れられやすい考え方であります。

製造業だからモノづくり、商社だからセレクトマーチャンダイジングというだけでなく、持てる知見と資産を利用して、気づいていないウォンツを見定めて「人のため」に新たなニーズを掘り起こせる、新たなチャレンジを設定することも、既存スキルをもっとフロー領域で活用する方法になるはずです。