小企業の中には、外貨取引が多い会社もあります。取引は専ら米ドル建てで行い、日本の企業であれば、日本円の会計記帳を行います。また、小企業でも、「空洞化」に対応するというだけでなく、積極果敢に海外拠点を設立する会社があります。現地法人から見れば、日本への輸出取引となり、米ドル取引、あるいは、日本円取引を行うことになり、当地の会計通貨とは異なる、外貨取引記帳をすることになります。
外貨取引の場合、会計通貨に換算された値を記帳するのが、一般的な方法になります。しかしながら、外貨取引が多い会社では、それはとても煩雑で、会計報告のためだけの仕事になります。日本円会計でも、実際の取引値である米ドルの値で入力する、海外の通貨での会計でも、実際の取引通貨値のまま日本円で入金する、というように、ありのままを記帳するしくみの方が、実務としては、会計の集計値を利用しやすくなります。
ここで紹介するExcel外貨記帳簿記データベースは、新しい、Microsoft 365 ExcelやExcel 2021、関数、パワークエリ、パワーピボットなどExcelの標準機能で作ります。会計やITの専門家ではない、一般の実務者が発想しましたので、一般的な簿記にはない「通貨」という値を項目のひとつに使います。どの通貨建てであろうと、実際の取引通貨の値のまま記帳し、通貨別でも参照、利用できるようにしながら、会計通貨としての簿記集計も行う、そんな記帳データベースです。筆者の体験をもとにしているので、ルピア会計の作例となりますが、項目名や数式の値を、お使いの会計通貨に合わせて修正すれば、日本円会計や米ドル会計など、他の通貨建て会計でも利用できます。
Excel外貨取引簿記データベースと繰り返し表記するには、いささか長い文言なので、以降、簡単に「EFCB」と略して記すことにします。(Excel Foreign-Currency Book-keeping Data Base)
今回は、EFCBの概要について記します。
EFCBの全体
制作例、EFCBのxlsxファイルに、下図のように、いくつかのシートを作ることになります。
シートの種類は、大きく5つに分けられます。
マスターデータシート
仕訳シートに作られる数式から参照される、元になるデータが収められます。
- 科目 勘定科目表
- レート 本書例では、月別の、対外貨ルピア為替レート
- 期首 期首残高一覧表
仕訳シート
仕訳を入力するシート。仕訳入力は、実際にあった取引通貨種と値を、そのまま入力します。
元帳データシート
元帳データを集計するシートです。会計通貨であるルピアの「R」がついているシートが、財務会計用となる、ルピアに換算されたデータ、「R」がついていない方が、外貨別の元帳データ集計です。
- 元帳 取引通貨単位の元帳データ(通貨別)
- 元帳R 財務会計通貨(ルピア)の元帳データ
月別・日別合計残高データシート
月別合計残高の集計も、取引通貨値と会計通貨値の2種類用意します。現金と銀行の残高だけは、通貨別日別のシートを作り、通貨別の変動損益計画や資金繰り計画作成や管理の際に、すぐ利用できるデータを用意します。
- 通貨月別 通貨別、月別の合計残高データ
- 合計残高R ルピア合計残高データ
- キャッシュ日別 通貨別日別、現金、銀行残高データ
レート調整データシート
EFCBでは、月別に社内の為替レートを設定して運用することになり、為替レートを変更する場合、外貨残高を新しいレートで計算し直し、修正仕訳を作る必要があります。修正の仕訳を手早く処理できるように、新旧為替レートの差額を集計し、すぐに参照できるシートを作ります。
シートの関係
マスターデータである基本シートを用意し、取引通貨の値で入力される仕訳を、関数によって財務会計の値に換算する数式を作り、パワークエリと、パワーピボットで、仕訳データを、元帳や合計残高などの形で集計するしくみです。更新ボタンをクリックすると、いつでも、取引通貨値と会計通貨値それぞれの、最新の集計を閲覧し、利用することができます。
また、為替レート変更の際は、月初めに外貨残高の調整仕訳を行う必要がありますが、レート調整シートに、必要な為替差益、差損の値を表示させ、で、手早く確認、調整仕訳を作れるようにします。
大がかりなシステムを必要としないが、海外の簿記、または、外貨取引を簡単に記帳したいと考えている方々、どうも、お疲れ様です。新しいMicrosoft 365 ExcelやExcel 2021があれば、私のような、ITや会計の専門家でない、実務者のひとりでも、外貨記帳簿記データベースを作ることができます。しくみさえできあがれば、日々、仕訳を蓄積し、いつでも、「更新」ボタンをクリックするだけで、最新の元帳データ、合計残高データを使えるようになります。
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