ビジョンを持つだけでなく目指すという行動が経営実務

望遠鏡の画像

ビジョンとは、アナタの望む姿、ありたい姿とシンプル簡単に捉えられます。あるべき姿と言うと、義務のような含みがあるので、アナタ自身がどうしてもそうなりたいという希望や願望としてのビジョンという意味を強くするため、ありたい姿としました。過去から現在という、これまでの流れの延長線としてビジョンを思うのでなく、理想像、今までは持っていない環境や技能、より広い視野でありたい姿を思い描きます。

ビジョンに具体的な数値や立ち位置などを設定すると、自分自身や社員の、その時々の環境や知見などによってネガティブな受け方になると実感します。実現性が高い数値設定では、既存事業をもっと頑張るという捉え方になり、それはビジョンというよりは具体的な計画目標というべきものとなるでしょうし、設定数値が高過ぎると感じられれば、ビジョンは途端に遠くはかない夢幻のようなものとなってしまい、自分の行動とはかけ離れたものとしか捉えられなくなってしまいます。

期待される数値などが実現化した結果、どのような人、人の心、人との関係性を持てるようになるのか、それはどういう方向にあるのかというように、生じる状態や心のあり様などを、少し抽象度を高めた言葉で表現する方が、自分も、その他の人も臨場感を抱き易くなり、納得感を与えるビジョンとなるようです。ただ、あまりに抽象度の高すぎる表現や難解な言い回しは避けた方が良いでしょう。自分も、他の人も一体何をしようとしているのか、実際の行動と関わりがあるのかどうかが分からなくなってしまうのでは、ビジョンとしての意味がなくなってしまいます。

ここでは、ビジョンに見られる、ある誤解について紹介します。

ビジョンを持たないという誤解

ビジョンが持てていないことやハッキリしたビジョンを持ちたいと悩む経営者があります。もし、アナタもそう考えているなら、肩を回して、もう少しリラックスしてビジョンを思い直して下さい。事業経営者であるということ自体がアナタが既にビジョンを持っているという証左のはずです。ビジョンを持っていないのでなく、言葉などで表現していないというだけのことです。また、ビジョンは、抽象度の高い概念ですから、イメージ化できる程度にハッキリすれば十分なはずです。数値などでハッキリさせるにしても大雑把な数値になるでしょうし、数値で限定するよりは、その数値が達成された時の環境や技能、心の持ち様などをイメージする方が維持し易く、使いやすいビジョンになります。

事業経営者のビジョン

アナタが既に事業を設立して、今経営をしているなら、ビジョンを持たないというのは勘違いです。事業を発起した時の様子や、その時、何を思っていたのかを思い出してみてください。

  • なぜ事業を開始することしたのか?
  • どうして今の事業を選んだのか?
  • その事業は他の人にどういう意味があるのか?
  • 事業がうまく行けば、アナタはどう感じると思ったのか?
  • 事業を利用するお客さんがどう感じると思ったのか?
  • どうなりたかったのか?

なぜ、どうしての自問自答の繰り返しで、自分の想いを再確認することができます。考えるのはエネルギーを必要とするので、そうしつこく考えることに慣れていないと、面倒くさい、疲れると感じますが、難しいことではなく、慣れていないだけなのです。繰り返し考えれば、誰でも、想いをより深く捉えることができるようになります。

繰り返しですが、既に事業を開始しているアナタは、したいと願い、ありたいと望んだ姿があったから事業を設立したという事実を思い直してみてください。それらなくして、事業を自分で開始する人はありません。最初から望む姿があったからこそ、今の事業が存在するということなので、当初の想いや経緯を今振り返ってみて、当初のビジョンはどうあったか、今はどう感じるのかを確認、感じて下さい。

望む姿は、随分と私的なことも含まれるでしょう。人に見せても良いビジョンという形にするのを急がず、まず、望む数値や環境、技能など、自分だけが観る、自分だけの想いを気にせずに全て出し尽くしてみます。そして、書き出したものが実現化したら自分や家族、あるいは、社員、お客さんやその他の人など、どういう人がどう思うのか、どう感じるのかを想像して下さい。それらをひとつの文章として、人に見せて共感を求められる表現に磨き上げ、ビジョンとして相応しいか、納得できるか、臨場感を持てるかを再々確認して完成させていきます。

創業した時点と現在の、お客さんやリピーターの数、社員の数や社員勤続年数などを比較することは、自分の持つ望む姿が他の人にどう受け止められてきたのかを知る縁となります。その経緯がビジョンそのものの結果なのか、ビジョンの表現の工夫を思わせるものなのか、また、ビジョンそのものより、ビジョンを目指す行動に課題があるのかなどを検討することができます。それが、ビジョンを明らかにすることで可能となることのひとつです。

世に自分の想いを問うという行為が経営であり、ビジョンとはその想いそのものを言うと捉えれば、ビジョンの文言そのものに魅力を感じ、入社を希望したり、取引を申し入れるというように、アナタが期待する人が表れることもあるでしょう。それが、ビジョンのもうひとつの可能性です。

ビジョンの最も大切な意味は、毎日の行動が、望む姿を目指しているかどうかの方向性とその意識を自覚しているかを照らし合わせる指標であるということにあります。綺麗に表現するというより、行動するための指標になるかどうかで文言を見直して下さい。

事業承継者のビジョン

アナタが事業承継という形で現在事業を営む人で、創業者と相談できる環境にあるなら、ぜひ、創業者の事業設立時の経緯や想いをお聞きになることをお勧めします。創業者に会うことができないなどの場合、事業設立を見守ってきた家族の方や知人、長年勤務している幹部や社員に、これまでの経緯についてできる限り多くの情報や意見を聞いいてみて下さい。どういう背景で設立され、どういう環境の中を存立してきたのか、そして、その人はどう思うのかを知る時間を採ることです。

  • 創業者はどんな人であったのか?
  • そういう創業者をどう思っていたか?
  • なぜ当社に入社したのか?
  • 勤務し続ける理由は?
  • 入社時は何を考えていたのか?
  • 今はどう考えるのか?
  • どうしたいと思うか?
  • 当社の社員であると観られることをどう感じるか?

事業承継の場合、創業者と比較して観られることが多くなります。というより、事業承継者であるアナタが一番そう意識しているかも知れません。アナタが新しいビジョンを新しい旗として掲げるのか、創業者の旗をそのまま継承するのかを決心する前に、まずは、創業者がどういう人でどういうことを想い、何をしてきたのかを良く知り、他の人が創業者をどう受け止めていたかを知るように努めます。プレッシャーは誰もが持つものです。そのプレッシャーで自分が考えられなくなることもあります。最初から考えようとせずとも良いのです。考える前に良く知るという行動に意識を集中させ、比較される創業者がどういう人であったかを最も知るのがアナタであると言われるように努めるのです。

人は時には正直に話すこともあるが、時には保身だけ、自分のやりやすいようにしたいがためにモノを言うこともあり、あるいは、他の人を助けようとして話すこともあるのは既にご存じの通りです。それらをアナタ自身の想いと照らし合わせ観ることで、自分の目指したい姿をイメージして下さい。アナタの思考はアナタの想いを意識する面積で一杯になり、プレッシャーを無くそうとしなくても、片隅に追いやられることとなります。

創業者とは異なる、第2の創業ビジョンをイメージすることもあるでしょう。創業者は気づかなかった人の想いを含むことや、時代により適したビジョンとして組み直されたものになることもあるでしょう。また、これまで通り、創業者の掲げていたビジョンをそのまま踏襲するという考え方もあります。事業の状態、社員とアナタの考え次第ですが、いずれにしても、今後、アナタ自身の名で、そのビジョンを運営することとなります。

ビジョンを持つことが目的とされる誤解

ビジョンを持つということは、言うなれば、会社を設立したというようなものです。会社は設立しただけ、存立しているというだけではお客さんに来てもらえず、収益が発生する訳でもありません。営業や宣伝活動を始め、事業としての必要業務全ての活動があって初めて売上が発生し、回収が行われ、給料が支払われるということになります。

ビジョンも同様に、ビジョンを設定したというだけでなく、ビジョンを目指すという活動にこそ経営の醍醐味と意義が存在しています。セルフイメージを高め、社内外のチームワークを意識し、具体的な行動を発案し、調べ、観察し、希望を目指せることを確認しながら行動する、その活動が繰り返し行われるためにビジョンが存在しています。

想像してみて下さい。病院から出てきたばかりの青年がいます。片腕全体が包帯で巻かれています。ふと見上げると近くの空港から離陸したジェット機が急上昇していくのが見えます。一方、ポプラの並木道で遊ぶ幼い子がいます。たくさんの野鳥がにぎやかに木々の間を飛び交うのを見上げています。ふたり共こうつぶやきます。

「飛びたい」

日本語で表現する場合、この二人が、全く同じこの言葉を発することに違和感はありません。しかし、英語で表現すると、以下のような言葉の違いが見られる場合があります。

I wish I could fly.
I hope I can fly.

説明のために作っているので、自然な英語としてはムリがあるやもしれませんが、幼い子のつぶやきとしては、仮定法の助動詞 couldを付けて表現し、青年の言葉には直接法の助動詞 canを用いて表現するという違いがあります。日本語の場合、この違いはその言葉には現われません。
英語では、仮定法を用いることで、当人は、想いの実現はほぼ不可能であることを知っているか、できないと思っているということを表現し、直接法によって、今はできないが、その方法は知っており、時期がくれば、現実にできることを確信しているという心の状態を表現しています。

私自身は日本語を母国語する日本人として生まれたことをこよなくお釈迦様に感謝するものであるので、日本語が英語より云々ということは一切思うものではありませんが、この違いはビジョンを言葉にする際にとても参考されるべき表現の差異であると感じます。ビジョンという言葉にするということは、言葉で言うだけでなく、行動を起こすことが前提となり、その覚悟を持っていることに本来の意義があるということです。それは、日記、記録、文章とビジョンという言葉との違いを考えるだけでも彷彿できることです。ビジョンとは、単に言葉で言うだけ、書くだけのものではないという、ほぼ誰もが感じ取れる共感があることを意識してみて下さい。

「飛びたい」という言葉は、何ら社会性を持つものではありません。個人のビジョンであればともかく、そのまま会社としてのビジョンにはなりにくいものです。会社は、人が人と共に、人のために行う経済活動を行うところ、つまり、経営を行う場所なので、どうしても社会性が含まれる必要があります。ビジョンという言葉を持つか持たないかは、望む姿を目指して行動するという覚悟をしたかしないかの違いであり、自分や自社が、どう、何を、社内外の人と共に、また、それらの人に対して、行うとしているのかが明らかになっているのかなっていないのかの差となります。

ビジョンという美しくきれいな言葉を持てば良いというのでなく、どのような行動をするのか、しようとしているのかの一種の覚悟を意識し、それを言葉として表したものがビジョンであることに改めて気づいて頂きたいと思います。

ビジョンと現在の姿から行動を導く

ビジョンは望む姿です。望むということは今はまだそうはなっていない姿です。では、今の姿はどういうものでしょう。それをビジョンと分けて、観察してみます。できる限り冷静に恣意的にならずに、対象のありままを観察結果として表現しますが、表現方法の多くは言葉に頼ることになります。言葉には、ネガティブかポジティブのどちらかを含意するものがありますし、「社員が元気ない」という表現であれば、そう思うのが自分であり、対象を観察する自分の主観が既に含まれることに留意して下さい。「社員は社内外で挨拶しないようである」「呼んでも返事をせずに黙ってやってくるだけ」のように言葉を変えることで、よりありのままの観察結果として現在の状態を言葉として表します。

今の姿とビジョンの対置図

図のように、今の姿とビジョンを対置させ、その間にあるギャップを解消するために必要な、技能、時間、人、道具、環境などを分けて考えます。図の作り方はアナタの自由です。ギャップを明らかにして、その対応策を考えます。

その対応策の内容が、そのまま、アナタの行動計画の対象となります。対応策には言葉だけでなく、画像や記号、数値などもふんだんに盛り込んで、より実感の湧く内容にしていきます。一枚の図では書ききれないということがまま発生します。どんどん、新しい図を描き、対応策、ギャップ解消策を記してみて下さい。

対応策を考えると、いろいろな方法が思い描かれることがあります。どれを選択するかと判断する前に、それぞれついてもシミュレーションして考えてみるという考え方もあります。ビジョンがあるから、今の姿と対比することで行動の企画が生まれるという流れを思い出して下さい。ビジョンとは行動の指標となるものです。